世界の労働基準監督署からVOL017:三田労働基準監督署

厚生労働省が貨物軽自動車運送事業の自動車運転者に係る労働者性の判断事例をホームページに掲載しました。

労働基準法上の「労働者」に該当するか否かは、契約の形式や名称にかかわらず、「労働者性の判断基準」に基づき、実態を勘案して総合的に判断されるところですが、先般、業務委託契約を締結し、個人事業主とされていた貨物軽自動車運送事業の自動車運転者から労災請求がなされた事案において、労働基準監督署による調査の結果、当該自動車運転者が労働基準法上の「労働者」に該当すると判断されたものがありました。

そこで、厚生労働省が他の業種と比べて申告が多く、判断に困難が伴うことも多い自動車運転者が、「労働者」に該当すると実際に判断された事例をまとめました。

ところで、労働基準法第9条では、「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定しているところ、労働基準法の「労働者」に当たるか否かは、次の2つの基準で判断されることとされています。

  • 労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか
  • 報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか

さらに、具体的な判断基準は、労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)において、以下のように整理されている。

  1. 「使用従属性」に関する判断基準
    1. 「指揮監督下の労働」であること
      • 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
      • 業務遂行上の指揮監督の有無
      • 拘束性の有無エ代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
    2. 「報酬の労務対償性」があること
  2. 「労働者性」の判断を補強する要素
    1. 事業者性の有無
    2. 専属性の程度
    3. その他

では、具体的に事例1についてみてみましょう。

本事例は、「荷主が元請事業者に配送を委託するとともに、当該元請事業者が配送員に対して、委託契約書に基づき、再委託(配送員は個人事業主扱い)。当該配送員が業務中に負傷したことから、労災保険給付の対象となるか否かについて、当該配送員から労働基準監督署に相談があった」ものです。

本事例では、「業務遂行上の指揮監督」については、①荷物の配送コースについては、本人の判断で変更可能であり、逸脱に対するペナルティもないこと、②業務の遂行状況の詳細について、アプリを通じて元請事業者に把握されており、配送の状況に変化がないような場合には、本人に対して連絡を行い、指示等が行われていること、③配達先が不在の場合の顧客への電話連絡の実施や置き配の方法等に関し、研修や社内掲示等により指示が行われていることなどから、「配送状況に応じて元請事業者から随時指示がなされているほか、配送時のルールについても定められ、指示が行われていたことから、業務遂行上の指揮監督ありと判断」されました(労働者性を強める方向)。

また、「拘束性」については、始業・終業時刻の定めはないが、1日の作業時間を12時間以内にすることを前提に、1日当たりの配送を行う荷物量が定められていることから、実態として勤務時間の裁量が低く、拘束性ありと判断されること、「代替性」については、契約書において第三者への再委託が禁止されていることから「代替性」はないこと、「報酬」については、1日当たりの日給制(18,000円)で支払われていることから、報酬が日単位で計算されており、「労務対償性」はあることが認められました。

このほか労働者性を肯定する要素、否定する要素が一定程度混在するものの、業務遂行上の指揮監督関係や時間的拘束性があり、報酬も業務に必要な時間の対価としての労務対償性が強いと認められること等を総合的に勘案し、本事例については、労働基準法第9条の労働者に該当するものと判断されました。

このように、労働契約にあたるかどうかは、契約書のタイトルではなく、その実態から判断されます。来年4月から施行される自動車運転者向けの新しい規制をさけるために業務委託化する企業が現れることも想定されるところですが、業務委託契約を締結するのであれば、上記のような事例も参考に、ポイントを確認する必要があるでしょう。

お問い合わせはお気軽に。043-245-2288

参考リンク

貨物軽自動車運送事業の自動車運転者に係る労働者性の判断事例について(厚生労働省HP)