国家公務員の人事制度は、定年を65歳に引き上げるため、令和5年4月より、60歳を境に適用される制度が、大きく変わることになりましたが、その内容は、現在60歳から定年年齢を引き上げようとする企業にとっても参考になる者と思われます。

そこで、以下ではその概要について見ていくことにしましょう。

まず、今回の定年引上げにともなう制度変更は以下の内容が含まれています。

  1. 令和5年4月から2年に1歳ずつ定年を引き上げ(令和5年4月の定年年齢は原則61歳)、令和13年4月に65歳
  2. 60歳に達した管理監督職の職員は管理監督職以外の官職に降任等をする管理監督職勤務上限年齢制(いわゆる役職定年制)を導入
  3. 60歳超職員の給与水準が当分の間60歳時点の7割水準
  4. 60歳以降定年前に退職する場合であっても定年退職と同様に退職手当を算定
  5. 定年前の60歳以降の職員が一旦退職した上で短時間勤務に移行する定年前再任用短時間勤務制等を導入

はじめに、定年の引き上げです。令和5年4月から2年に1歳ずつ段階的に引き上げられ、令和13年4月に65歳となります。段階的引上げの期間中の定年年度と対象職員は以下のとおりとなります。定年の引き上げにあたって段階的に引き上げるか、一度で引き上げるかは検討が必要ですが、民間企業では、一回で引き上げてしまうケースが多いように思われます。

次に、「管理監督職勤務上限年齢制」(役職定年制)です。役職定年制では、次の①・②が行われます。

  1. 管理監督職に就いている職員を、管理監督職勤務上限年齢に達した日の翌日から最初の4月1日までの期間(異動期間)に、管理監督職以外の官職等(他の官職)への降任・降給を伴う転任をさせる。
  2. 管理監督職勤務上限年齢に達している者を、異動期間の末日の翌日以後、新たに管理監督職に就けることができない(管理監督職から降任等をされた職員を、当該降任等の日以後、新たに管理監督職に就けることができない。)。

これを図にすると以下のとおりです。60歳到達日から、その日以降最初の4月1日までが異動期間とされていますが、民間企業で応用する場合には、通常の異動のタイミングで合わせることなども検討する必要があります。

なお、管理監督職勤務上限年齢制の特例として、人事院規則で定める3つの事由のいずれかに該当するときは、任命権者は、他の官職への降任等をすべき管理監督職の職員の異動期間を1年以内の期間で延長して、引き続き管理監督職で勤務させることができます(職員の同意が必要。)。民間企業における一般的な役職定年制ではこのルールが必ずしも明示されていないことが少なくありませんが、後進の育成状況をふまえて要否を検討するべきでしょう。

勤務延長型特例任用は、対象職員の異動期間を最長3年間延長(初回の異動期間の延長は任命権者の判断、2回目以降の異動期間の延長は人事院の承認が必要。)することができます。

次に、60歳に達した職員の俸給(給与)については、当分の間、職員の俸給月額(いわゆる基本給)は、職員が60歳に達した日後の最初の4月1日(特定日)以後、7割水準となります。

60歳超職員の俸給月額 = (俸給表の職務の級・号俸に応じた)俸給月額の70%(70/100)

ところで、定年延長にともなって基本給を減額する制度を創設することは、労働条件の不利益変更に当たらないのでしょうか。この点については、55歳から60まで定年延長した事案において「就業規則の不利益変更に当たるか否かは,・・・労働者の既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することになるか否かの問題である」としたうえで、改正後の就業規則に定められた55歳以降の勤務条件が54歳までの勤務条件と比較して不利益なものであっても、不利益変更ではないとしたものあります(東京高判H19.10.30「協和出版販売事件」)。したがって、民間企業でも定年延長にともない、旧定年後の賃金を、旧定年前より減額したからといって、直ちに不利益変更にはあたらないと解されます。

しかし、管理監督職の職員が、管理監督職勤務上限年齢による降任と、基本給の7割措置が行われると、給与が二重に引き下げられることとなります。そのため、当分の間、職員が60歳に達した日後の最初の4月1日(特定日)以後、7割措置後の俸給月額のほか、管理監督職勤務上限年齢調整額が俸給(基本給)として支給されます。これにより、管理監督職として受けていた俸給月額の7割水準の額が基本給として支給されることになります。

ここまで基本給周りについて紹介してきましたが、60歳に達した日後の最初の4月1日以後の諸手当はどうなるのでしょうか。詳細は省略しますが、以下の手当については、7割減額の対象外とされます。

  • 扶養手当
  • 住居手当
  • 通勤手当
  • 単身赴任手当
  • 対象手当
  • 特殊勤務手当
  • 宿日直手当
  • 寒冷地手当

一方、俸給月額等に連動した額とする手当(地域手当、期末手当、勤勉手当等)は、7割水準となります。

次に60歳に達した職員の退職手当についてみてみましょう。

60歳(旧特例定年相当職員にあっては特例定年年齢。以下同じ。)に達した職員の退職手当については、次の1・2が措置されています。

  • 定年引上げに伴い60歳超の期間の給与が減額される職員に対し退職手当の基本額の計算方法の特例(いわゆる「ピーク時特例」)を適用する措置
  • ② 60歳に達した日以後退職する職員の退職手当の支給率の設定

なお、60歳に達した日以後、その者の非違によることなく退職した者の退職手当の基本額については、
当分の間、退職事由を「定年退職」として算定されます。

最後に定年前再任用短時間勤務制について説明します。この制度は、60歳に達した日(60歳の誕生日の前日)以後、定年前に退職した者を、短時間勤務の官職に採用することができる制度です。定年前再任用短時間勤務職員の任期は、定年前再任用の日から定年退職日相当日(常勤職員の定年退職日)までとなります。したがって、定年の引き上げ期間中は、その職員が正規職員であったときに適用となる定年退職日までが「定年前再任用短時間勤務制」となり、その日の翌日から65歳到達年度末までは、従来の再任用制度である「暫定再任用短時間勤務職員」として処遇されます。民間ではここまで複雑な仕組みにする必要はないでしょう。

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参考リンク

定年・再雇用(人事院HP)