厚生労働省は、いわゆる「障害者雇用ビジネス実施事業者」やその利用企業の実態把握を行っています。「障害者雇用ビジネス実施事業者」とは、障害者の就業場所となる施設・設備(農園、サテライトオフィス等)及び障害者の業務の提供等を行う事業をいいます。今回労働政策審議会障害者雇用分科会に報告された資料では、把握した実態と懸念される課題、望ましい取り組みをまとめられています。今回は、この資料の内容をもとに、障害者雇用ビジネス利用時の注意点などをみていきましょう。

たとえば次のような事例が報告されています。

  • 障害者雇用ビジネス実施事業者が自らの実習を通じて障害者の選定等(3人をグループとして選定する事例も)を行い、紹介する。
  • 障害者雇用ビジネス実施事業者から紹介された障害者が採用基準に合わない場合でも、採用を断れないとする利用企業の声もあった。
  • 障害者雇用ビジネス実施事業者が職業紹介を行わないため、障害者の募集についてハローワーク等を利用している。その際、障害者雇用ビジネス実施事業者が求人提出の際の同行や、応募書類の受付等の事務の代行を行っている事例も見られた。

このような利用の在り方については、「求人内容の検討や採用選考に当たって、利用企業が主体的に対応していない場合、障害者の適性や必要な配慮に関する確認等が十分に行われないことが懸念」されるとして、次のような「望ましい取組のポイントを示しています。

  • 「障害者の能力を正当に評価した適当な雇用の場」となるよう、選定・創出した業務に求められる知識・スキルと、障害者の能力や特性、必要な合理的な配慮について明確化し、募集・採用を実施することが重要
  • 選定・創出した業務について、その遂行に必要な能力等を整理し、求人内容を決めることが必要。応募者の能力や必要な合理的配慮を踏まえ、職務内容や就業時間等について調整する余地がある場合には、求人内容に明示しておくとマッチングに効果的
  • 求職者が応募前に職務内容や職場環境について理解できるよう、また企業としても求職者の職務への適性や必要な合理的配慮について把握できるよう、企業は職場見学の実施や職場実習を主体的に実施することが望ましい。

厚労省は以上のような点を挙げていますが、筆者は厚労省は一体何を問題にしているのか判然としないように感じます。障害者雇用ビジネスが数字だけの法定雇用率制度達成の手段となっているようにも見える点を問題視しているようでもあるのですが、現時点ではより障害者雇用促進法の趣旨に合致した雇用の在り方になるよう模索しているのかもしれません。

一方、①障害者雇用ビジネス実施事業者が、利用企業からの在籍型出向により障害者を受け入れているケース、②障害者雇用ビジネス実施事業者が、1年ごとに同一就業場所にある他の利用企業の障害者と入れ替えることで、無期雇用転換ルールの適用を回避できる旨の説明資料を配布しているケース、③障害者雇用ビジネス実施事業者が同一就業場所にある他の利用企業と賃金格差が生じないように等助言・推奨を行っているケース、④障害者雇用ビジネス実施事業者が運営する就業場所の営業日や送迎バス運行時間に合わせることを前提に、利用企業が労働時間を決定しているようなケースなども報告されています。

①については、雇用率達成のためだけに活用されるほか、そのような目的のために出向が認められるのか(労働者供給に該当しないか、無許可派遣に当たらないかなど)という問題について検討する必要があるでしょう。また、②のようなケースについては、「有期契約の満了前に使用者が更新年限や更新回数の上限などを一方的に設けたとしても、雇止めをすることは合理的な理由を欠くものとして無効とされる場合があることに留意」としています。③および④のようなケースでは、雇用主よりも障害者雇用ビジネス実施事業者が主体的に労働条件を決定している点が問題とされています。

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参考リンク

障害者雇用ビジネスに係る実態把握の取組について(厚生労働省HP、PDF)