image087近年特にメンタルヘルス疾患の休職の場合に、職場復帰に当たって主治医の診断とともに産業医の診断を課す会社が増えています。その際、復職をめぐる判断について、主治医と産業医の見解が相違するケースがあります。

このような場合の傷病手当金申請書に記載する医師の意見について、厚生労働省がQ&Aを作成し、事務連絡として通達しましたので、今回はその内容についてみてみましょう。

まず「傷病手当金の支給申請書に添付する医師等の意見書は、産業医が作成することはできるのか」という質問について、回答では、「意見書を作成する医師等は、被保険者の主症状、経過の概要等を記載することとされているため、被保険者が診療を受けている医師等である必要がある」ということを前提として、「被保険者が診療を受けている医師が企業内で当該被保険者の診療を行う産業医であれば、当該産業医が意見書を作成することは差し支えない」としています。

そうすると、一見産業医の意見書で傷病手当金の支給申請ができるようにも読めますが、「企業内で当該被保険者の診療を行う産業医であれば」としているところに注意してください。企業内で被保険者の診療を行う場合には、医療法に基づき、企業内に診療所等の開設がなされていることが必要となります。したがって、単にその企業の産業医であれば意見書が書けるということではないというわけです。そうすると、中小企業では、企業内に診療所等を設置しているケースは稀ですので、傷病手当金の支給申請書に記載する医師の意見は、通常は主治医が記載するということになるでしょう。

そうすると、主治医が復職可能(就労可能)、産業医が復職不能(就労不可)とした場合、どのような取扱いになるのでしょうか。

この点について、同通達の次の記述が参考になります。すなわち、被保険者が、診療を受けている医師等から労務不能であることについての意見が得られなかった場合(就労可能であるとの判断がされた場合)、「当該医師等とは別の産業医に対し、労働者としての立場で就業についての意見を求め、意見を求められた当該産業医が任意に作成した書類を保険者に提出することは差し支えない」とされており、「この場合、・・・医師等の意見書には、労務不能と認められない疾病又は負傷に係る意見の記載を求めることとされたい」とされています。少しわかりにくい表現なのですが、その傷病が労務不能ではないことの意見を記載して提出しろというわけです。

なお、このようなケースでは、保険者が、被保険者本人の同意を得た上で、当該産業医の意見を聴くことも可能であるとしており、「双方の意見を参酌し、適切な判断をされたい」とされています。

最近の「リスク回避」を謳う就業規則では、私傷病休職の復職可能性を絞る傾向があり、今後このようなケースも増えてくると思われます。そのとき、主治医が復職可能、会社側の医師が復職不能とした場合の、傷病手当金の請求という場面で参考になるものと思います。

■参考リンク

傷病手当金の支給に係る産業医の意見の取扱いについて(厚労省HP,PDF)

MORI社会保険労務士・行政書士事務所では、日々生じる従業員に関する問題やちょっとした労働法に関する疑問、他社事例について、気軽に電話やメールで相談できる「労務相談」業務の依頼を受託しています。もちろん社会保険、給与計算、就業規則、各種許認可業務等も対応します。ぜひお問い合わせください。

toiawase